『髑髏城の七人』Season花_2017/05/03昼

 三回目の髑髏城。前回、「これがmy千秋楽♡」と心に決めてはいたが、やすやすと財布の紐を解いてしまった自分が情けない。

 

 観劇後、2011年と1997年の『髑髏城の七人』の映像*1を観て、また小説版も読んだ。通称「若髑髏」と呼ばれる2011年版は兎にも角にも森山未來さん演じられる天魔王が恐ろしいやら美しいやら格好良いやらで、Season鳥が待ち遠しくなった。けれどそれは、花が終わっている未来なのだから切なくなる。

 1997年版はやはり「捨之介と天魔王は同じ顔」という設定の筋が通っていて、かつそれを古田新太さんがケレン味たっぷりに演じられるものだからもう面白くて仕方がない。

 『髑髏城の七人』という作品のこれまでの変遷は、どこか『STAR WARS』シリーズと似通っている部分があるとわたしは思っている。アクが強いがハマる人にはハマる作品が、次第にたくさんの人を魅了し、最終的には大資本すら味方につける。そして最大公約数的な面白さまで提示できるようになる。この変化には感謝しかない。『髑髏城の七人』がもしも1997年で終わっていたら、わたしたちはあの豊洲の不思議な劇場で、『髑髏城の七人』を観ることはなかっただろうから。

 けれど失われたものもあるのだろうと思う。「捨之介と天魔王は同じ顔」。これは失ってはならない背骨だったのではないか。1997年版と小説を知った今では強く思う。話の筋としては小説版が一番すきだ。兵庫と極楽は自然の成り行きで固い絆を持つようになるし、蘭兵衛に関しても、空白が少なく、その変貌の描かれ方は血で描いたように鮮やかだ。そして捨之介と沙霧の関係がなんとも切ない。

 

 とはいえわたしにとっての髑髏城は、やはりSeason花だ。捨之介は飄々として爽やかで、蘭兵衛は過去の重さに血を吐き続けている。天魔王は道化師のようでいて油断なく周囲を睨め回し、兵庫はどこまでもまっすぐ。極楽は透き通っていて優しく、沙霧は胸を張って己の拳で(時には飛び蹴りで)道を切り拓く。

 

 作品との出会いは、運命のようで偶然だ。そもそも当日引換券で向かったあの日の第一衝動は「回る劇場を観もせずに、なにが趣味は観劇♡じゃ」と思ったからだし、「小栗旬山本耕史なんておトクだな♡」くらいの心持ちだった。それがここまで魅了されるとは。観劇の神様がいるなら、お礼を言いたいくらいだが、お財布の神様は泣いていると思う。

 

 さて今回は、前方のブロックではあったが上手のかなり端のほうで観た。なんとなく山本蘭兵衛さんばかり観るのは気が引けたから、「捨之介と蘭兵衛のアイコンタクト」に注目した(結局蘭兵衛さん……)。いよいよ終盤へ向けて小栗捨之介の距離の取り方に遠慮がなくなり、これまた爽やかな笑顔をバシバシみんなに向けている。特に蘭兵衛には、やはり昔馴染みという表現だろうか、目が合うとニコっとする瞬間が何度かあった。だが蘭兵衛は特に表情を変えるでもなく、ぷい、と顔を背けてしまう。それが蘭兵衛を唯一「朴念仁」たらしめているように感じられるし、捨之介の表面上の笑顔の下に眠る暗闇を、蘭兵衛は知っているのだと結末から逆算もできる。

 そのアイコンタクトを初めてまっすぐ返すようになるのは、蘭兵衛でなくなってから。それがなんとも切ない(「切ない」って何回書いたかな……)。腹の底で渦巻く過去への血反吐を吐ききってしまった蘭兵衛が、亡霊となってやっと、捨之介の視線を受け止められる。

 「織田信長」という男への解釈は、若髑髏の描き方が実に秀逸だと思う。天魔王は信長のような西洋に傾いた装いで現れるし、遺された者たちに神のように崇められている男の存在感は、最早生きてさえいるようだ。それは遺された捨之介・蘭兵衛・天魔王の三人が「若い」から、ということも大いに影響している。だが花髑髏における信長とは、過去になりつつある存在。だからこそ蘭兵衛が、結局はそれを乗り越えられないことが悔しい。

 

 なぜもっと早く出会えなかったのだろう。舞台をよく観るようになってから、そんな取り留めもないことをよく考える。だが前述した通り、作品との出会いは運命のようで偶然、そして必然なのだろう。幼い頃、母親に連れられてなぜかリバイバル上映で『STAR WARS』旧三部作を歌舞伎町の映画館で観た、というより観させられた。当時のわたしに響いたのは、カチカチに固められちゃうハン・ソロと、死にそうなヨーダだけだった。結局わたしにとってのヒーローは、その数年後に観たアナキンでありパドメで、師匠はオビ=ワンと回転攻撃をキメるマスター・ヨーダになった。

 『髑髏城の七人』も、きっと花髑髏からでなければこんなにもすきにはならなかった。そしてステージアラウンド東京でなければならなかった。あと何回、豊洲へ向かうことになるのだろう。一年後に観る髑髏城は、どんな景色なのだろう。

 記憶を手繰り寄せながら、花髑髏との別れが名残惜しくてたまらない。

 


*1:ちなみに『髑髏城の七人』の映像は以下の劇団新感線映像系の公式サイト

から入手するのが現状安価だし、公式に還元できる気がする。また豊洲HMV等では購入すると先着でゲキシネの招待券(1組2名!!)をくれるので、かなりお得に購入できる。