ミュージカル『刀剣乱舞』三百年の子守唄_2017/03/12昼

後方上手ブロックにて観劇

 

 「手に入れた以上、なくすことはできない」そんな台詞を、荒木宏文さん演じるにっかり青江が言う。積み重ねた時間の分だけ、苦しいことは増える。それは100年も生きはしない人間ですらそうなのだから、刀剣男士たる彼らの痛みは想像もつかない。けれどもしも悲しみと同じかそれ以上に、彼らが喜びを見出せていたら。時間軸の違う存在がともに同じ刹那の時を過ごす、張り裂けそうなほど切なくて、それでいてあたたかい物語だった。

 そもそもの任務の内容や、彼らと周りの人間の間に流れる時の描き方にはいくつも疑問は浮かんだ。だが中盤に流れる一曲はただただ美しい。これまで刀ミュを支えていたヒーローショー的な見せ場やアイドル要素を廃して、純粋なミュージカルとして上演して欲しかった。とはいえ想像上のイラストが生身の人間となる楽しさはやはり健在。トライアル公演から応援し続けて、もう卒業かなと思っている人にこそ、聴いて欲しい子守唄だった。

musical-toukenranbu.jp

舞台『弱虫ペダル』スタートライン_2017/03/05夜

中央センターブロックにて観劇

 

 ずっと「手嶋純太」というキャラクターが苦手だった。誰よりも努力しているくせに自分は凡人だと言い、誰よりも勝ちにこだわるくせに自分は弱いと言う。けれど舞台『弱虫ペダル』を通して、私は彼というキャラクターを初めて身近に感じることができた。

 鯨井康介さん演じる手嶋純太は、それはもうよく動くし喋るし場を回す。観ているこちらが驚くほど舞台上を把握していて、作品のためにはどんな労力も惜しまない。漫画やアニメで切り取られた瞬間以外、手嶋さんはこうして生きていたのかと直感的に感じることができる。こんなに大変だったのか、と。

 常に周りに目を配り、自分の苦しさや悔しさをぐっとこらえて、誰かの背中を押せるキャプテン。それが手嶋純太。頑張らないと期待なんかされない!!今作で手嶋さんは叫ぶ。全力でペダリングする鯨井さんから発せられたその言葉は、まっすぐに心に刺さって忘れられない台詞のひとつになった。 

(ちなみに原作でイチ推しの新開悠人くんを演じられる飯山裕太さん、信じられないくらい悠人なのでみんな観て欲しい。。。)

 

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ありがとうアルターボーイズ2017

〜『ALTAR BOYZ』合同スペシャル追加公演を経て〜

 

 2月は逃げると言うけれど、今年の2月は特別だった。『ALTAR BOYZ』という作品に出会い、夢中になった。バレンタインデーはもちろん劇場にいたし、2月最後の週末も劇場にいた。

 「ありがとうアルターボーイズ」それしか言う言葉がみつからない。なんて冗談抜きで本気でそう思っている。合同公演の記憶はあやふやだ。初日はTeam LEGACYとTeam GOLDのシルエットが浮かび上がっただけで泣いていたし、千秋楽はなにで泣いているかわからなかった。けれど間違いなく、悲しくて泣いた瞬間はなかった。本当はもっと暗い気持ちになると思っていた。Team LEGACYは解散すると宣言していたし、Team GOLDはたとえ数年後に続投してくれたとしても、それは進化もとい成長した彼らであって、良い意味でTeam GOLDではないからだ。

 

 『ALTAR BOYZ』という作品が、なぜ自分の心をここまで震わせるのかは、自分でもよくわからない。とても形容し難い感情だ。ただ、アルターボーイズと出会ってからずっと、あたたかな手が自分の背中を守ってくれているような気がする。これまで自分を守ってきてくれたものを、改めて知る感覚。暗い森から明るい草原に出て、驚いて振り向くような。歩いて来たこれまでの道に伸びる自分の影を、明るいところからまじまじと見つめるような。

 東山マシューさんの、『ALTAR BOYZ』という作品に対する、真摯であたたかな眼差しが忘れられない。厳しいようで底抜けに優しい中河内マークさんは、いつも爪の先、まつ毛の一本一本にいたるまでルークを演じてくださっていた。森ルークさんの、「これからはお前たちの時代だ」という言葉とその響かせ方に、涙腺が崩壊した。植木フアンちゃんが毎公演、フアンが持つ悲しみの、その一つ一つを変化させて表現されていたことが毎回驚きだった。良知アブちゃんのカーテンコール、15歳の夢を33歳で叶えられた。そんな素敵なことが起こるこの世界は、本当に大袈裟でなく、捨てたもんじゃないなと思えた。

 

 毎日毎日、なにかしら素晴らしいことは起こるし、途方に暮れることも起きる。けれどその時にどの方向を向くか。試されているのは舞台上だけではなく私たちも試されている。

 『ALTAR BOYZ』という作品の魅力の一つは、宗教色を全面的に押し出しながら、なにを信じるかではなく、信じるという行為そのものの美しさを描いている点にあると思う。そして無限の解釈。同じ瞬間を共有した観客が、それぞれのバックグラウンドでそれぞれに感じられる自由度の高さ。だからこそ、チーム制が実現できるし、やはり『ALTAR BOYZ』は現代の神話と言っても過言ではないのではないか。

 

 Team GOLDはまた必ず戻って来ると言ってくれた。それを私は信じてる。合同公演、Team LEGACYを見送るアルターガールズの先輩方にも、ありがとうという気持ちになった。これまでを応援した方々がいるから、自分はアルターボーイズに出会えた。いつか黄金が遺産になる時、そんなアルターガールズでいたいと思う。

 

ちなみに以下の公式HPには早速、

合同スペシャル追加公演は全日程終演いたしました。
たくさんの皆様のご来場、キャスト・スタッフ一同、心より御礼申し上げます。

という文言が追加されている。

こちらこそありがとうという気持ちだけど、やっぱりさみしい!!

Rockの絶大なパワーを感じて、星座の輝きを見るまで

 アルターボーイズが帰国してしまった。彼らが新宿FACEを浄化してくれる日が、またいつ来るかはわからない。けれどどうしてだろう、私は明日が来るのが楽しみだ。

 

 3年前、すべての始まりは超歌劇『幕末Rock』初演千秋楽における、良知真次さんだった。『LAST SCREAM』の歌声が、圧倒的な質量をもって自分の頬を震わせたのを今でも覚えている。見切れ万歳の当日券だったが、カーテンコールではキャストさんとハイタッチして、隣の見ず知らずのお姉さんとキャ~と悲鳴を上げたりもした。あの矢田センセー推しのお姉さん、元気にしているだろうか。

  超歌劇のなにが楽しかったかって、千秋楽で作品自体が大きく「化けた」点にある。この人、こんなにカッコ良かったっけ、とずっとときめいてしまえたし、この歌、こんなにサイコーだったっけ、とドキドキした。ストーリーもより簡潔に思えたし、中日に観たそれとは、なにもかもが変わっていた。

 

 それからは「舞台」という表現そのものに魅せられてしまって、もともとハマりやすい性分だったこともあり、趣味のひとつが観劇になった。入口がいわゆる「2.5次元」作品だったために、その系統の作品ばかり観ていたが、良知さんを追いかけていると、帝劇にも世田谷パブリックシアターへも行けた。

 

 そんな中、初めて良知さん以外に目を奪われる俳優さんがいて、その人のことも応援したくなった。その俳優さんを最初に観たのはそこまで大きな舞台ではなかったが、ある作品をきっかけに、彼はあっという間に人気が爆発した。駆け上がって行く姿を観るのは楽しかったし、早い段階で彼を応援しようと思っていたことがなぜだか誇らしかった。芸術家が花開いた時に、ずっと昔から彼の初期作品を自宅に飾っていた人のような気分。そして認められなかった芸術家が、死後認められた時、「父は叔父の才能を早くから信じていました」と語る子孫のような気分だった。

 けれど悲しいかな、私自身も観劇を重ねるうちに情報収集能力が高まって、いろいろなことを知ってしまった。今はもうきりがないから見ないと決めたが、このご時世、プライベートなことは少しずつ漏れ伝わって来る。

 超歌劇の続編が、集客的には振るわなかったこともショックだった。制作でも関係者でもなんでもない私が、なぜそんなことに一喜一憂するのかと言われればそれまでだ。だが早めに仕事を切り上げて座席に着き、ワクワクしながらふと後ろを振り返った時に、誰も座っていない二階席を見るのはしんどかった。

 この景色を、続編まで頑張ってくれたスタッフ・キャストさんたちに見せるのか。やるせない気持ちになった。もっと誰かを誘えば良かった、いやもっと自分がチケットを増やしておけば良かった。今更過ぎて、しかもどうしようもないことを何度も思った。そして千秋楽、舞台に深々と頭を下げた良知さんに、拍手をおくるしかできない無力感に苛まれた。

 どうしてなんだろう。こんなに楽しくて、熱くて、魂を揺さぶられる作品がどうしてもっと評価されないんだろう。どうして私たちが愛した作品は、終わってしまうんだろう。自分の応援が否定されたような気持ちに勝手になって、勝手に落ち込んでいた。そんな時、私は『ALTAR BOYZ』に出会った。

 

 ここでもしなにかあって死んだら、絶対誤解されそうな新宿歌舞伎町の雑居ビル。不思議な甘い匂いのするスモークや、邪魔になるのに買わなくてはならないドリンク。腰が痛くなるパイプ椅子や、切り替える度に大きな音のするピンスポット。今までに体験したことのない状況に囲まれて緊張しながら観た。

 楽しい。底抜けに楽しかった。音楽もストーリーも無駄な瞬間が一切ない。何度観ても発見があるし、何度観てもなにかを取り損なった気がして、帰り道は歌舞伎町の喧騒をものともせずに脳みそがフル回転する。iPhoneに入れたオリジナルキャストの音源を頼りに、なんとか記憶を繋ぎ止めようとするが、あの瞬間をデータのように保存することなんてできないんだと理解してもいた。そしてそれこそが劇場へ来る価値だと、改めて思い知った。

 

 アルターボーイズが救ってくれた。なにも考えずに純粋にその時間に集中できる楽しさを思い出させてくれた。舞台のなにに惹かれ、これまでの3年間、時間を使いたくなったのかがやっとわかった。板の上と客席が曖昧になる瞬間。毎日変わる空気。舞台表現だけが持つこの「変化」にこそ、自分は夢中になっていたんだ。この広過ぎる世界で、たった数時間を劇場にいる人間たちだけで共有する、そんな閉じられた世界に浸る。それを少しずつ噛み砕きながら、また劇場に通う時まで、心の糧にする。それこそが超歌劇以来、自分が一番楽しいと感じていたことだった。

 

 アルターボーイズの再来日は祈るしかできない。けれどあの唯一無二の瞬間の記憶は、私の中で変わり続けながら、輝き続けている。

 

ALTAR BOYZ Team GOLD_2017/02/14夜_千秋楽

中央センターブロックにて観劇。

 

 久し振りに、舞台上から約束してもらえた気がした。きみたちの願いは聞き届けられた、と。千秋楽公演、Team GOLDの全員がとにかくいつも通りの演技を意識しているように観えて、だからこそ震えるような希望が持てた。

 また会いましょうなんて、夢物語だと誰もが知っている。舞台は「今」を楽しむもので、同じ瞬間は二度と訪れない。けれどそれが素晴らしい作品であればあるほど、その宿命を打破するように私たち観客は拍手をおくる。数年後であってもまた集って欲しいと願い、唯一の輝きを求める。それは単純に観客のエゴだ。だが『ALTAR BOYZ Team GOLD』千秋楽公演で魅せてくれた答えは、信じるに足るものだった。

 特別なことはせずに演じ切ってくれたからこそ、この先の未来を感じた。千秋楽が特別じゃない。それはどんな福音よりも私の心を励ました。受け取られたバトンは、どう育ち、またどう受け継がれるのか。次の来日コンサートが、今から待ち遠しくて仕方がない。

 

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ALTAR BOYZ Team LEGACY_2017/02/12夜

中央センターブロックにて観劇。

 

 これはあくまで個人的な解釈だが、Team LEGACYが示したかったのは、『ALTAR BOYZ』という作品が生み出す未来のひとつの終着点だったのではないか。ALTAR BOYZとしてそれなりにヒットした彼らは、魂の浄化コンサートを続け、それなりに豊かになり、そしてそれはルーチンになった。「そうだそうだ、絶対にそうだ」、ルークは自分たちに言い聞かせるように言った。最早彼らは繰り返す日々を識別できていない。

 だから、La Vida Eternalからが本番。彼らのループは壊れ、それでも永遠を歌う、歌わなくてはならない。これまで歌ったことのない歌を歌い、改めてメンバーに己をさらけ出す。

 Team GOLDにおけるI Believeは結束を取り戻す歌に聴こえたが、Team LEGACYのそれは別れの歌にも聴こえた。けれど信じてる、きみを。あの後、彼らは解散するかもしれない。けれどそれは進むため、停滞から抜け出す輝く意志。彼らの時計がまた動き出す瞬間に、私たちはたまたま居合わせたような錯覚を覚えた。

 

www.altarboyz.jp

舞台「メサイア-暁乃刻-」_2017/02/11夜_初日

中央センターブロックにて観劇。

 

 私にもメサイアが欲しい!!このシリーズを観ているといつもそう思う。誰かの唯一無二になれることは、やはり偉大で貴重で素晴らしいことなのだと思う。卒業生の名前が出て来た時、思わずその顔がくっきり浮かんで、キャスト変更しない価値を改めて感じた。

 いつも思うのだけれど、脚本的にはやはり映像映えする作品だ。世界観だけを利用して、本気でハリウッドで映画化してくれないかな。とはいえ今回も、応援し続けているファンをがっちり掴んで離さない内容なのは確か。

 それにしても私はキャラクター的に有賀という不器用な背の高い人がだいすきなのだが、あの人、本当によく怪我をする。それを鋼鉄の意志でいつもなんとかしてしまうのだが、前回もたくさん注射されたりリンチされまくっていたような……いつも大丈夫なのか、というくらいボロボロになってしまう。けれど今回は少しだけ笑える部分もあって、彼が柔軟になり始めている片鱗を観れて嬉しかった。

 

messiah-project.com